斎藤孝さんの『身体感覚を取り戻す』は繰り返し読んでいる。ボリュームはそれほどだが、いまの日本の国体を形作った要因を腰肚という観点から煮詰めていった着眼の鋭さと内容の充実度合は群抜きである。 東洋史上類をみない早さで西洋文明を流入し、従来の文化に同化・融合せしめた国、日本。明治という元号はその大躍進期の象徴ともいえる。 この世界史上でもたぐい稀といわれる維新と文明開化の原動力は、独自の身体文化に秘め …
粘菌
昨年の梅雨のこと、軒先にあるライラックの切り株に見なれぬ光景を発見。粘菌である。 粘菌は寒暑風湿に応じて、文字通り千変万化する原始的な生命体である。植物とも動物とも分類しきれず、キノコのような形から胞子となって舞い飛んだかと思えば、アメーバのようにもなって微生物を捕食することもある。 おそらく朽ちかけたライラックの切り株を見つけて(一体どうやって⁉)飛来してきたものと思われる。 うま …
ノアの箱舟
地球のすべての生き物には「適応」という力が具わっている。これによって必要な力は伸び、不要な力は失われていく。髭が剃るたびに濃くなり、歩けば脚が太くなるのもこの適応の産物である。 病菌を殺せ罹患者を近づけるなと、外から来るストレスを忌避し逃げ惑う間にも、この適応作用は刻々と働いていることを忘れてはならない。病気を遠ざければ、これを活かし共生する力もどんどん委縮退行していく。 一方人間によって過酷な環 …
潜在意識と氷山
こころの全体構造はよく氷山に例えられる。 野口整体では海面から出ている部分が現在意識、海中に隠れた部分が潜在意識、そしてそれらの大本となる海水が無意識であると表現する。 ユング心理学では呼び方が変って、先ほどの順番で行くと意識、個人的無意識、集合的無意識になる。 いずれも意識の狭さと限界性を指摘し、無意識の広大さと可能性を説いている。野口整体で「頭をポカンとさせる」というのも、ユングと同じ無意識に …
木に学べ
宮大工の西岡常一さんの話を一冊の本にした『木に学べ』(小学館)。伝統の職人による木と日本古来の建築、そしてそれにまつわる周辺のお話で、現代文明の在り方を当然と思って生活する我々に内省を促す内容だ。 全編どこを切っても含蓄の深い話ばかりである。その中でもわたしが最も気になったのは下の引用部。 自然の木と、人間に植えられて、だいじに育てられた木では、当然ですが違うんでっせ。 自然に育った木ゆうのは強い …
心象風景を可視化するもの
6歳の息子による自作のフリスビー。 気がつくとうちの子はマンダラのような図柄をよく描いている。 ユングは自身が心の病にかかったとき、毎朝円をモチーフにした図柄を描くことで自分の心象風景を可視化させていた。 のちのこれが東洋の曼荼羅と酷似することを知り、円形の模様はself(自己)を現す人類共通のイメージ(元型の一つ)であるという仮説に辿りつく。 子どもの行為を注意深く観察していると、こうしたユング …
事故
家から三本前の辻は車道になっている。どういうわけかこの道はしょっちゅう事故が起こる。 ちゃんと数えたわけではないけれど、だいたい1、2か月に一回は車かバイクが事故を起こして傍らにパトカーが止まっているのを目撃するのだ。 今朝もあったのだが車と原付が接触したらしく、どういうわけか車の方が横転していた。 俗に「魔の交差点」とか「魔の時間帯」という言葉もあるように、事故が起こるには起こりやすい環境や条件 …
尋常小学校
子どもが6さいになり、4月から小学生になる。 そんなタイミングで夜眠る前か朝起きたときに小学館から出ている尋常小学校の文庫本を一緒にポソポソ読みはじめた。 内容としては戦前まであった修身という授業に使われた教科書がベースになっている。 人間の生き方や道徳にまつわる話の短編集で、日本史上の偉人だけでなく外国の人物まで例に挙げて、人間の徳行というものを文字で学ばせるのだ。 こうして書いていくと「そもそ …
治癒までの距離
結婚する前の妻と単発の気功セミナーに行ったときのエピソード。 その時の50代とおぼしき講師がすこぶる行動的な人だった。若い時分から勉強のために台湾にも行くし、インドにも行く。そして話が興に乗って来たあたりで「今年アメリカで開催されるヒーリングセミナーにみんなで行きましょう!」と言い始め、参加者一同目が点になったところでお開きとなった。 どうも話を伺っていると、成育歴などいろいろ問題のあった方で一筋 …
裡なる感覚
ニューズウィーク日本版に掲載された大江千里氏のコロナワクチン体験記を読んだ。なかなか興味深い。 ニューヨーク在住の同氏がワクチンを打った後の反応について時系列で細かに綴ってある。摂取した晩に重度のアナフィラキシーショックで苦しんだが、免疫抗体がなくなる3ヶ月後には「もう一度受ける」と結んでいる。「科学を信じる」からだそうだ。 人物としての大江さんは昔から好きだが、科学に対するこのような態度は科学的 …