汗を冷やさないよう

実際、汗で冷えるのは困る。たとえば、夏になると、赤ちゃんが汗をかくので、風通しのいい所に寝かせて置きますと、熱も汗も出ないで、肺の中心が侵される中心性肺炎になって死んでしまうことがよくあります。風通しのいい所に寝かせて、汗をかくのがいけないのです。汗の処理というのは考えているより重要なもので、なぜその処理が必要かというと、冷えると内攻するからです。活元運動をやって汗をかいて、そのまま拭かないでいたというようなことも、場合によっては体をこわす因になります。(野口晴哉著 『体運動の構造 第一巻』 全生社 p.21)

仕事が終わってから保育園に太郎丸を迎えに行くと、なにやら空気がひんやりしていた。日中はだいぶ日が照っていたけれども、夕食後にまた買い物に出たら風が冷たいではないか。ということで、くどいようだがまたまた「汗の内攻」の話である。

とにかく汗を冷やすと、ガクーンっと調子を崩す。キケンなのだ。時に赤ん坊や幼児はかなり重篤な状態になるので、とりわけ初夏と秋口の汗をあまく見てはいけない。風が冷たく変わったら湿った肌着を取り替えたり、風が直接体に当たらないように上着を羽織らせるなど細かい気配りが必要だ。

整体が説く「健康生活の原理」というのは、案外こういう微細な身心のケアだったりする。派手さはないのだが、効果は高い。しかし日常的すぎるので有難味はない。よって実践する人も少ないのが悩みだ。

実際は、覚え込んだ知識を掘り起こして駆使するというよりは、身体感覚の向上が主眼である。しかし「整体」という感覚が充分育つにはそれなりに時間が掛かるのだ。特に乳幼児のケアなどは緊急性が高いので、こういう系統は大人の方に注意を喚起するようにしている。

すでに汗を冷やして諸々体調を崩してしまったという場合は、直ぐに温めて汗を出すことだ。やり方は先日の記事に書いたので、ご参考までに。今日は窓を閉めて寝よう。

汗の内攻

 四月も半ばになると、温かさを通り越して、少し暑い感じの日があり、そして翌日は、また寒くなるというようなことがあります。すると予定していたようにドカドカと、病気が増える。これは明らかに汗を出して、そのまま冷やしたためです。そういうことが毎年あるので、今日は汗の話をしようと思います。

…汗をかいて冷たい風に当ると、風邪を引く。寒いから風邪を引くわけではない。汗をかいたのに、それを冷やして風邪になるのです。そういう風邪は“汗の内攻”というべきもので、ドカドカと熱が出て、汗をかいてしまえば、自動的に治ってしまうのです。その汗を冷やすと、いろいろな変動がおこりますが、またその汗をドカッと出せばそれっきりよくなります。

冬の風というのは、真向かいに受けると、心臓に影響があります。向かい風が悪いのです。ところが、暖かになってからの風は、背中に受けると内攻しやすいのです。夏は背中の風を警戒し、冬は向い風を警戒するというのが、吾々の常識になっています。

…それでは、汗が内攻すると、どういうような徴候が起こるか。

先ず、だるい、手足が重い、皮膚が硬張る、筋肉が痛む。また呼吸が苦しくなる、体がむくむ、妙に眠くなるというのも、みんな汗の内攻の徴候なのです。汗の内攻は、必ず呼吸器に影響があります。(野口晴哉著 『体運動の構造 第一巻』 全生社 pp.19-22)

一昨日汗の処置について書いたので、文献でおさらいした。毎年初夏になるとこの作業を一回はやっている気がする。

「汗を冷やした」と言った時に原因としてダントツにあがるのはエアコンです。電車などでは早々とクーラーが掛かっていたりするので、通勤途中でかいた汗をそのまま冷やして体調を崩すことが多い。そのままうっかり寝てしまうと余計にこたえる。眠ってしまうと体温調整が行われにくいので、無防備になる。特に着衣が湿っている時は風に注意したい。

それから寝冷え。春は寝入りの時間帯に比べて明方が冷えるので、できるだけ外気の寒暖差に冒されにくいよな環境を心がけよう。

さて一度引っ込んで内攻した汗を出すには、後頭部を蒸しタオルで温めるのが有効だ。だるさが抜けるまでタオルを絞りながら繰り返し当てていく。そうするとどこかで皮膚が弛む感じがわかるので、そうしたらそこでやめる。朝晩行えば1~2日くらいで汗の内攻によるダルさは抜けてしまう。

経験がないのだが、サウナも良い気がする。古来から「温熱療法」というのは形を変え、姿をかえて何度となくリバイバルされてきたものだ。それだけ「冷やす」というのは万病の種なのだ。汗は身体を冷やすために出るんだけど、その性質と処置は知っておくといい。

春から初夏にかけての「汗」の処置

先週のことだったが太郎丸が汗を冷やして風邪を引いた。とても暑い日で保育園で外遊びの後に汗を冷やしたらしい。

こんな風に一度出た汗をそのままにして、風にあたると、冷えて内攻する。整体では晩春とか秋口になると汗の処置をよく指導するのだ。

一般的には汗が身体に及ぼす影響はほとんど知られていないけれど、「汗の内攻」は風邪や肺炎のもとになるから軽視してはいけない。とくに月齢が浅いと重篤な状態にもなりかねないので、特にこれからは窓からの風やクーラーには注意が要る。

予防策としては、汗をかいたらすぐに拭くことだ。そして肌着も替えること。あたり前すぎで有難味がないんだけれど、実生活の場で本当に役立つ知恵はこういうものだったりする。

すでに調子を崩してしまった場合には、お風呂で身体を温めれてやればいい。そうやって引っ込んだ汗がまた出てしまえばいいのだが、知らないと割とめんどうな体調不良に発展しやすい。

とりわけ子供の風邪を扱う上で、こういう「汗の処置」を知っているかいないかで経過がだいぶ違う。たったこれだけのものでも、嗜みとして覚えておくといい。

眠りの質

弛めるためには眠るということが一番役に立ちます。皆さんは整体指導というと、操法して弛めるつもりになっておられるが、操法してひと寝入りしたあとの体の状態というのが大事なのです。操法する場合に、必ず相手は眠るものとして、その眠りをどう活かすかということで進めていく。このことを知っているか知らないかで、上手か下手かに別れるのです。つまり整体では、眠りということを弛みの一番の代表として、操法の中に取り入れているのです。

ほんとうに深く眠れるようにさえすれば、あとは何も要らない。あとは自動的に恢復するように人間の体は出来ているのです。だから眠りの問題をもっと研究する必要がある。(野口晴哉著 『体運動の構造 第一巻』 全生社 p.66)

よく「寝ても寝ても寝足りない」などというように、同じ人であっても睡眠には長短の波がある。一般には長く眠れることが良いと考えられがちだけど、睡眠時間が長いのは身体があちこち偏って疲労しているのであって実は良い状態とは言えない。逆に全身くまなく疲労して眠ると短時間で済むのだ。

自身の体験として、大学時代に日曜日になるとまる一日空手の強化練習に出ていた時期がある。夕刻に練習が終わると駅まで歩いて帰るのもイヤになるような疲労度合だったのに、次の日は必ず日の出と同時に目が覚めるのが不思議だった。今から考えると、全身クッタクタになるまで使い切ったことで眠りが異常なまでに深かったのだ。あんなに身体を傷め付けるような練習(?)はもう絶対したくはないけれども、体験知としてはいい学びになった。

整体では身体を傷めずに、繊細な刺激を使ってその人なりの偏り疲労を正していく。これによって眠りが深くなるわけだ。しかもそういう状態が何日もつづくように身体感覚を発達させるのが目的である。

今から思うと、仕事を始めた当初は身体の固い人が来るととにかく「ゆるむ」まで粘ろうとして苦労していた。現在は拙いながらも「眠り」を技術として使うことを覚えたことで相手も自分もあまり疲れなくなったのだ。最近は特に、「技」というのは「力」の対極にあることを噛み締めている。

一点注意が要るのは、眠りが短くなると「眠れなくなった」と心配されることがある。巷では「睡眠時間」を重視する傾向が強いので当然と言えば当然だが、とにかく眠りは「時間」ではなく「質」に依っている。これを説明ではなく体験として理解していただけたら、一回の操法がきちっと当ったと思っていいだろう。

起きている時間の効率化は多くの方が取り組まれるのに対して、眠りの効率化は盲点になりやすい。ところが古来から一流と言われるような人たちはみんな眠りを大切にしてきた。一日の過ごし方は人生の縮図と言われるが、充実した一日は深い眠りからはじまる。だからこそ眠りの質を高める整体操法は「人生を充実させる技術」だと言えるのだ。

悩みが消える眠り

筋肉が緊張すると、体が硬くなります。弛むと柔らかになります。体中が硬くなっているときは緊張しています。体中が弛んだときは弛緩しています。そして、弛めているのに弛まないところがあれば、それは異常です。例えば、会社が終わったあとでも会社の仕事が頭から離れないでいるときは肩が弛まない。胸椎の五番から上が弛まないのです。それが異常なのです。そういう場合には、目が覚めても、体の疲れがとれていない。だから眠いのが続いて、もう一度寝直さないと目が覚め切らないのです。
もう一つは、腰椎の一番が硬直している場合で、この場合も、同じように弛みません。ところが深く眠ると、腰椎の三番が弛んできます。三番が飛び出しているうちは、深く眠っていないのです。だから腰椎一番、三番を観れば眠りの状態が判ります。(野口晴哉著 『体運動の構造 第一巻』 全生社 pp.65-66)

最近、整体の途中で受けている方がよくコクッと寝てしまう。仕事の時間的制約を考えれば決して褒められた技術ではないのだけど、眠くなってしまうのだからしょうがない。

上手な身体使いというのは「使い方より休め方」で、ゆるみの良い身体ほど、いざ使うときに無理・無駄なく全力が出せるようになっている。だから整体の技術というのは、おおむね、身体が弛むような刺戟を使うことで成り立っているのだ。

引用に出てくる胸椎五番というのはだいたい肩甲骨の間、中でも一番狭い辺りだ。現代人の疲労傾向として、この五番から上が硬いというのは非常に多く見受けられるのだけど、この硬さが進行してくるとやがては「うつ」とか「ノイローゼ」の状況にもなってくるから注意が要る。

うつは「心の病」という風に括られがちだけど、やはり身体の疲労状態ともリンクしているのだ。身体が上手く弛めば、そういう心的疲労も解消されるようになっている。

そして身心が弛むには「眠り」が重要だ。デール・カーネギー氏の『道は開ける』でも悩みを解決する良策の一つに昼寝や早寝などの「眠る習慣」を挙げている。それでは、ただ眠れば何でも良いかというと、そこで「質」という問題を無視できない。

この眠りの質を高める、ということが整体では重要な仕事だ。整体は「受けた直後」ではなく、「一晩眠った後の身体」で仕事の質が判る。次の日起きたときの身体を観ることが出来れば研究がはかどるのだけど、それはできない相談なのでなるべく前回からの経過を聞くようにしている。

共通して言えるのは指導中にふっと眠ってしまった方は、それ以前の「悩み」が消えている。当初は不思議に思っていたが、よくよく考えれば、問題事とか悩み事の正体は「思念」なのだ。眠りというのは尊い。どうにもならない問題をあれやこれ考えはじめたら、身体をよく弛めて深く眠ることを心がけたい。