丹田を氣で満たす

健康や武道関連の話ではよく「丹田、丹田」というが、腹式呼吸などに頼って丹田に力を入れすぎる人はその外観に反比例して大抵中身がスカスカになっている。

下腹部の表面が広範囲に張ってはいるが、これは気張りの産物で「実力」ではない。

「気張る」というのは自分の内容に自信がないときに現れる、いわば水増し行為なのだ。いってみれば不安が凝固したようなものである。

本来は「気張り」の必要がないように、全心身の調和を実現させて「氣を満たす」ことが正しい。

そうすると下腹はふっかりと柔らかいのだが、そこに手を当てて確かめるとずーっとその内奥から氣が突き出ているのが判る。

このときはじめて丹田が充実した、といえるのだ。

逆にいえば肉体面だけを意識してうんうん唸ってみたって身体は一向に整わない。そこには心の全体性が深く関与している。

整体指導には当然心理(指導)が含まれるもので、丹田の周辺だけをどうにかしようとしたってどうにもならないのである。

中心(丹田)の充実は全体に波及するが、逆もなた真なりで中心を正すには周辺を整えれる必要があるのだ。

整体は主に後者の方式を取っている。

河合隼雄さんによる「中空構造」という理論があるが、「何も無い」ということは既に一杯に満たされているのだ。

森羅万象、虚々実々である。丹田のことなどむしろ放っておくくらいでちょうどいい。

丈夫だとか健康だとか、そんなことをすっかり忘れて何かに夢中になっている時、丹田に触れてみれば判る。そういうときこそ自己の中心がはもっとも充実していることに気づくはずだ。