悩みが消える眠り

筋肉が緊張すると、体が硬くなります。弛むと柔らかになります。体中が硬くなっているときは緊張しています。体中が弛んだときは弛緩しています。そして、弛めているのに弛まないところがあれば、それは異常です。例えば、会社が終わったあとでも会社の仕事が頭から離れないでいるときは肩が弛まない。胸椎の五番から上が弛まないのです。それが異常なのです。そういう場合には、目が覚めても、体の疲れがとれていない。だから眠いのが続いて、もう一度寝直さないと目が覚め切らないのです。
もう一つは、腰椎の一番が硬直している場合で、この場合も、同じように弛みません。ところが深く眠ると、腰椎の三番が弛んできます。三番が飛び出しているうちは、深く眠っていないのです。だから腰椎一番、三番を観れば眠りの状態が判ります。(野口晴哉著 『体運動の構造 第一巻』 全生社 pp.65-66)

最近、整体の途中で受けている方がよくコクッと寝てしまう。仕事の時間的制約を考えれば決して褒められた技術ではないのだけど、眠くなってしまうのだからしょうがない。

上手な身体使いというのは「使い方より休め方」で、ゆるみの良い身体ほど、いざ使うときに無理・無駄なく全力が出せるようになっている。だから整体の技術というのは、おおむね、身体が弛むような刺戟を使うことで成り立っているのだ。

引用に出てくる胸椎五番というのはだいたい肩甲骨の間、中でも一番狭い辺りだ。現代人の疲労傾向として、この五番から上が硬いというのは非常に多く見受けられるのだけど、この硬さが進行してくるとやがては「うつ」とか「ノイローゼ」の状況にもなってくるから注意が要る。

うつは「心の病」という風に括られがちだけど、やはり身体の疲労状態ともリンクしているのだ。身体が上手く弛めば、そういう心的疲労も解消されるようになっている。

そして身心が弛むには「眠り」が重要だ。デール・カーネギー氏の『道は開ける』でも悩みを解決する良策の一つに昼寝や早寝などの「眠る習慣」を挙げている。それでは、ただ眠れば何でも良いかというと、そこで「質」という問題を無視できない。

この眠りの質を高める、ということが整体では重要な仕事だ。整体は「受けた直後」ではなく、「一晩眠った後の身体」で仕事の質が判る。次の日起きたときの身体を観ることが出来れば研究がはかどるのだけど、それはできない相談なのでなるべく前回からの経過を聞くようにしている。

共通して言えるのは指導中にふっと眠ってしまった方は、それ以前の「悩み」が消えている。当初は不思議に思っていたが、よくよく考えれば、問題事とか悩み事の正体は「思念」なのだ。眠りというのは尊い。どうにもならない問題をあれやこれ考えはじめたら、身体をよく弛めて深く眠ることを心がけたい。