平温以下の時が風邪の経過の急所

平温以下の時が経過の急所

風邪というのはたいてい自然に治るもので、風邪自体すでに治っていくはたらきですから、あまりいろいろなことをしないでいいのです。ただ大切なのは熱が出て発汗した場合で、風邪で発熱する場合にはかなり上がることがあります。三十八度の人もあれば、三十九度の人もあれば四十度を越すこともある。しかし熱が出たから慌てて冷やすなどということは滑稽である。むしろ後頭部を四十分感、温めるのがいいのです。そうすると発汗して、風邪が抜けると一緒に熱が下がります。下がり出すと三十六度五分から七分という平温の基準線より、もっと下がるのです。五度台になったり、六度になったり、五度五分になったり、一時、こういう平温以下になる時があって、それから平穏に戻るのです。

…ともかく脈なり体温なりで平温以下の時が判るが、この平温以下の時期が風邪の経過の急所なのです。この時期に暴れて冷やしたりしてしまうと二次的な異常を起こす。風邪の中でも耳下腺炎といって、耳の下が腫れるお多福風邪などは、この平温以下の間にちょっと飛んだり跳ねたりすると、女なら寝小便をするか卵巣炎を起こし、男なら脱腸、睾丸炎を起こすなど、とんでもない処に余病を起こす。まあ耳下腺炎に限らず、平温以下の時期に動くと余病を起こし、この経過のやり損いが、成長してからの発育不全とか月経異常とかに関連してくるのだから気をつけなくてはならない。また大人でも、この時期に冷やすと小便が急に出なくなるとか、急に下痢が続いて止まらなくなるとか、体の方々が痛んでくるといような第二次的病気が発生する原因になる。

…今までは皆、熱のある時だけは病気だと思って懸命にいろいろなことをやり、熱がなくなると慌てて動き出していた。それではせっかく風邪を引いても丈夫になるわけがない。丈夫になるように風邪を経過するには、平温以下の時に身心を弛めることと、その時の愉気が大切である。(野口晴哉著 『風邪の効用』 ちくま文庫 pp.67-73)

子供の通う保育園でもぼつぼつ風邪が流行ってきた。肺炎を起こした子もいたようで、斯様に風邪は処置を誤ると危ない。我が家もご多分に漏れず、息子を筆頭に順番に罹患した。息子は一旦40℃まで熱が上がったから、やはり若いということは体力の塊であることを再認識したものだ。

子供の風邪の経過がやや長引いてしまったのだが、今回はまさしく平温以下の時の過ごし方がよくなかった。治りかけの時に活発に動いてしまうと、がくんと調子が変わる。一般的には「ぶり返し」などと呼ばれる現象だろう。詳細は上に引用した通りだが、風邪の処置は熱が下がった時の対応が急所である。一般的には多くの方が油断される所ではないだろうか。

引用部を読めば一通りわかる話であるが、こういうことはいくら知識をため込んでもしょうがない。病気の対応などというのは、平素からよく感覚を磨き、その身体から滲み出てこそ価値がある。「本に書いてないからわからなかった」というのでは実人生の役には立たない。形骸化とは斯くの如しである。

しかしながら数多の治療術や健康法への依頼心を退け、自らの自然生命に信を置くにはそれなりの「裏付け」がいるはずだ。そのためには活元運動を修めることが何より親切である。一つの問題に百も千も策を労するのは愚かなことだ。一を以て万に当る。実際問題これさえ出来れば後はいらない。

整体法は40年前に既に完成を見ているのだ。以来いつ何時、誰に対しても通用する真理と供に超然としている。後は個人の資質に依拠するのみ。願わくは天上の月を貪り見て、掌中の珠を失すること勿れ。健康は常に生命と供にあるのだから。