妊娠期の運動(散歩)

現代では医療機関の発展にともない出産における重篤な事故は減りました。ですが母子の心と体にとって良い出産が増えたかと言えば、そこには疑問を持たれる方が多いのではないでしょうか。

当院で妊婦さんをお引き受けした際にまず思うのは、「産める身体」になっていないなということです。出産は事前準備が9割です。出産には妊娠期の生活習慣のみならず、今までの生き方がすべてそこに現れます。

全般に医療機関でも妊婦さんにはよく「安静」を勧めるようになりましたし、それ以前に現代ではほとんどの方が運動が足りていません。受胎が判ったと同時に(できれば妊娠を希望した時点で)、「産める身体作り」を心掛けるべきです。

ここではその一端として「運動」のあり方についてご紹介します。

妊娠中の運動で一番良いのは「散歩(ウォーキング)」です。ポイントは「歩くために歩く」ということです。つまり買い物や、上の子の送り迎えの「ついで」ではなく、散歩を胎児とのコミュニケーションとして行うことです。

子供が生まれるとよく分りますが、赤ちゃんは抱っこして歩いている時にとても安心するのです。それは適度なゆれとお互いの呼吸が直に感じられるからです。また散歩をしている時は「母と子だけ」の時間になり、そのために子供の心が自然と充たされます。これは母体内にある時からでも変わりはありません。

歩き方は、できれば一人で、「自分の速度で歩く」ことです。人に速度や時間を合わせると、身体の要求を充分に満たすことになりません。自分に適った刺激で、腰に少しずつ負担をかけながら訓練することが大切です。ですから、ずーっと自分の歩幅でもなく、しばらく歩いたら10歩大股で歩いてみる。そしてまた普通にもどして、またしばらくしたら10歩大股にする。これを繰り返すことで仙骨が自然と刺激されて、骨盤や仙腸関節の可動性がだんだん増してきます。上り坂の場合は同じように歩いて構いませんが、下り坂の場合は小股でチョコチョコを心掛けてください。転んだり膝を痛めないようにするためです。

もちろんシューズもウォーキング用のものを選びましょう。体重が増えてきますから、股関節、膝、足首を護るためにこういった注意も必要です。

疲れるまでやるといけませんが、慣れると1日30分~1時間くらいは楽に歩けます。これを晴れても雨でも生まれる直前まで続けると安産につながりますし、また産後の経過も良好になります。マタニティーブルーのようなうつうつとした気分も歩くとさっぱりしますから、運動が足りていないと思う方はぜひ「散歩」を実践してみてください。

<おまけ>
昔からトイレを掃除すると安産になると言われています。これはおまじないでも迷信でもありません。実は狭いトイレの中を大きなお腹でしゃがんだり立ったりして掃除をすることで、腰や仙腸関節、股関節がいろんな角度で刺激され、骨盤がよく動くようになるのです。トイレもきれいになりますし、一石二鳥です。もしよかったら、こちらも合わせてお試しください。